避難所における要配慮者への対応:自治会が住民に伝えるべきポイント
はじめに
大規模な災害が発生し、地域の公共施設が避難所として開設された際、そこには様々な状況にある人々が集まります。特に、高齢者、障害のある方、乳幼児を連れた方、妊娠している方、病気療養中の方、外国人の方など、特別な配慮が必要な方々(以下、「要配慮者」と称します)への対応は、避難所運営において非常に重要な課題となります。
自治会は、日頃から地域の住民と密接に関わる立場として、これらの要配慮者の方々が安心して避難生活を送れるよう、住民への適切な情報提供と、避難所開設時のスムーズな受け入れに向けた橋渡し役を担うことが期待されています。
この記事では、避難所における要配慮者への対応の重要性、想定される課題、そして自治会として住民にどのような情報を伝え、どのように平時から準備を進めるべきかについて解説します。
要配慮者とはどのような方々か
災害対策基本法において「避難行動要支援者」とされる方々を含め、一般的に避難所における「要配慮者」とは、以下のような、災害時に支援が必要となる可能性の高い方を指します。
- 高齢者
- 障害のある方(身体障害、知的障害、精神障害など)
- 乳幼児、未就学児を連れた方
- 妊娠している方
- 病気療養中の方、持病のある方
- 難病の方
- 外国人の方(特に日本語でのコミュニケーションに困難がある方)
- 日本語での読み書きが困難な方
- その他、特別な支援が必要と判断される方
これらの人々は、情報収集や移動、避難所での集団生活において、様々な困難に直面する可能性があります。
避難所で想定される要配慮者の課題
避難所では、限られた空間と資源の中で多数の人々が共同生活を送ります。その中で、要配慮者の方々は以下のような課題に直面する可能性があります。
- 情報伝達の困難: 災害状況や避難所運営に関する情報が、文字情報のみであったり、早口の日本語であったりするため、内容を理解しにくい場合があります。視覚・聴覚に障害のある方、外国人の方にとっては特に大きな壁となります。
- 生活空間の問題: 車椅子での移動スペースの確保、点滴など医療行為のためのスペース、プライバシーの確保(授乳スペース、着替え、オストメイトなど)、騒がしい環境への適応などが難しい場合があります。
- 医療・介護ニーズ: 持病の悪化、薬剤の入手困難、専門的な医療処置や介護サービスの継続が困難になることがあります。
- 精神的負担: 慣れない環境、先の見えない状況、周囲への遠慮などから、強いストレスや不安を感じやすくなります。
- 衛生環境: 集団生活における感染症のリスクや、清潔な環境の維持が難しい場合があります。
- ペット同伴: 避難所によってはペット同伴が認められない、あるいは同伴できてもスペースが限られるなど、課題となることがあります。
これらの課題に対して、自治体や避難所運営者は可能な限りの対策を講じますが、限界があることも事実です。
自治体が準備・検討していること
多くの自治体では、避難所における要配慮者支援のために、以下のような準備や検討を進めています。
- 福祉避難所の指定: 一般の避難所での生活が困難な高齢者や障害のある方などを対象とした、より専門的なケアや設備を備えた避難所(福祉避難所)を指定しています。ただし、開設には時間を要する場合が多く、受け入れ人数にも限りがあります。
- 避難所内の配慮スペース: 一般の避難所内にも、可能な限り要配慮者向けの専用スペースや優先スペース(高齢者、障害者、乳幼児連れなど)を設けることを検討しています。
- 情報提供の工夫: 張り紙だけでなく、口頭での伝達、筆談、多言語対応(タブレット端末の活用や通訳ボランティア)、手話通訳者の配置などを検討しています。
- 避難行動要支援者名簿: 災害発生時に自力での避難が困難な方々の名簿を作成し、避難支援に役立てる取り組みを進めています(名簿作成への協力は本人の同意が必要です)。
自治会が住民に伝えるべきポイント
自治会は、自治体と住民の間の重要な情報伝達役です。避難所における要配慮者への対応について、以下の点を地域の住民に丁寧に伝えることが推奨されます。
- 「要配慮者」に含まれる多様な方々について知ってもらう: 特別な支援が必要なのは高齢者や障害者だけではないこと、そして誰でも一時的に要配慮者となりうる可能性(例えば、怪我をした場合や体調を崩した場合)があることを理解してもらうことが重要です。
- 事前の情報共有の推奨: 災害時に避難所での特別な配慮や支援が必要となる可能性がある場合は、可能な範囲で、事前に自治体や自治会にその情報(必要な支援内容、連絡先など)を伝えておくことの重要性を伝えてください。これにより、自治体や避難所運営者が事前に準備を進めやすくなります。
- 福祉避難所について: 福祉避難所があること、どのような方が利用できるか、そして利用には原則として市町村の決定が必要であり、すぐに開設されない場合があることを正確に伝えてください。
- 避難所での「配慮スペース」について: 一般避難所にも配慮スペースが設けられる可能性があること、ただし数や広さに限りがあることを伝えてください。
- 情報入手の多様な手段について: 災害時の情報が様々な方法(ラジオ、テレビ、インターネット、防災無線、広報車、そして避難所の掲示や口頭)で提供されること、特に聴覚や視覚に障害のある方、外国人の方は、事前に情報入手の手段を確認しておくことの重要性を伝えてください。避難所での多言語対応や筆談などの工夫についても周知します。
- 自助・共助の重要性: 避難所での公的な支援には限りがあるため、可能な範囲で自身の安全確保や必要な準備を行う「自助」、そして地域や避難所内で互いに助け合う「共助」が非常に重要であることを強調してください。特に、周囲の人が要配慮者の方に声をかけたり、困っている様子があれば運営者に知らせたりするなどの協力をお願いすることが大切です。
- ペットに関する情報: ペット同伴避難が可能か、可能な場合のルールや準備すべきもの(ケージ、食事、トイレ用品など)について、自治体の情報を確認し、伝えてください。
平時からの準備と自治会の役割
災害が発生する前の平時からの準備が、要配慮者の方々を含む地域全体の防災力向上に不可欠です。自治会は以下の点に取り組むことが推奨されます。
- 地域の要配慮者把握(同意を得た上で): 自治体が作成する避難行動要支援者名簿への登録を促進したり、地域の見守り活動の中で、同意を得た上で特別な支援が必要な方の情報を把握したりすることで、災害時の安否確認や声かけ、避難支援に役立てることができます。
- 個別避難計画策定の支援: 自力での避難が困難な方が、誰と、いつ、どこへ、どのように避難するかを具体的に計画する「個別避難計画」の策定を、本人の同意を得て自治体と連携しながら支援することが考えられます。
- 地域の防災訓練への参加促進と工夫: 要配慮者の方々も参加しやすいような防災訓練を実施・企画したり、訓練を通じて地域住民が要配慮者支援の知識・スキルを身につける機会(声かけの方法、簡単な介助方法など)を設けたりすることが有効です。
- 地域の福祉施設や関係団体との連携: 地域の福祉施設、医療機関、障害者支援団体などと日頃から連携を取り、災害時の情報共有や相互支援の体制について話し合っておくことが望ましいです。
まとめ
災害時避難所における要配慮者への対応は、人間としての尊厳を守り、誰もが安全に避難生活を送るために不可欠な取り組みです。これは自治体だけの課題ではなく、地域住民一人ひとりの理解と協力、そして自治会の積極的な役割が求められます。
自治会は、この記事で述べたような避難所における要配慮者の課題や、自治体が進める取り組み、そして住民自身ができることや知っておくべきポイントを、地域の回覧板、掲示板、説明会などを通じて丁寧に周知することで、住民の防災意識を高め、災害時における要配慮者支援の円滑化に大きく貢献することができます。
地域の公共空間が「もしものため」の避難所として、そして「普段の安心・交流の場」として機能するためにも、地域住民一人ひとりが互いを思いやり、支え合う「共助」の精神を育んでいくことが、今、求められています。